原作は1781年に書かれたフランス人劇作家・ボーマルシェの戯曲。初演は1786年のウィーン・プラハ。
アメリカでは自由と平等を謳って独立戦争が勃発し、フランス国内では89年のフランス革命へ向けて貴族や領主たちへの反感が日に日に高まって...
原作は1781年に書かれたフランス人劇作家・ボーマルシェの戯曲。初演は1786年のウィーン・プラハ。
アメリカでは自由と平等を謳って独立戦争が勃発し、フランス国内では89年のフランス革命へ向けて貴族や領主たちへの反感が日に日に高まっているという時代背景の中書かれた戯曲です。
領主であるアルマヴィーヴァ伯爵は勇気も知恵も乏しいどうしようもない好色家として描かれ、家臣たちの策略にまんまとハマってやりこめられてしまう。といっても「さぁ貴族と戦うぞ!」「民衆よ立ち上がれ!」などと大衆を扇動しているわけでもなく、わかりやすい男女関係を軸に「堕落した貴族を知恵のある平民がやりこめる」という社会風刺を喜劇的に描いた作品と言えます。とはいえ、オペラとして上演されれば観客は当然貴族たち。喜劇的とはいえ風刺の効いたシナリオは初演以来何度も上演禁止になってきました。
ともすれば世俗的で下品な作品にもなりかねない内容、度重なる上演禁止、それでもオペラ史に残る名作になり得たのはモーツァルトの華麗な音楽に依るところが大きいと言えます。
華やかな序曲に始まり、誰もが耳にしたことがあるアリアや重唱の数々、これほど名曲が生まれたオペラはそうありません。初演では鳴りやまない拍手と共にアリアだけでなく重唱までアンコールされたそうです。また、ストーリー的にもクライマックスを迎える第四幕、フィガロのアリアから全員の合唱まで一気に盛り上がっていく華やかで壮大なフィナーレも見どころの一つと言えるでしょう。
ところでこのフィナーレ、よくよく考えてみると面白いことが起こっています。冒頭に書いたようにこの戯曲は「平民が貴族をやりこめる」お話でした。が、劇中でフィガロは貴族であるバルトロの子であったことが判明します。つまり平民として描かれていたフィガロはこの時点から貴族ということになります。ということはその妻スザンナも当然貴族。バルトロと結婚したマルチェリーナも貴族になり、貴族の息子(小姓)ケルビーノに嫁いだバルバリーナも貴族になり、その父アントニオも貴族となります。
なんと、ほぼすべての登場人物が貴族に成り上がって終幕となるのです。平民が貴族をやりこめて、最後には自分たちも貴族になる。この華やかなフィナーレの裏にはそんな「痛快さ」もあるのかも知れませんね。
舞台は18世紀半ばのスペイン郊外にあるアルマヴィーヴァ伯爵の屋敷。
今日は伯爵の召使い・フィガロと伯爵夫人の侍女・スザンナの結婚式です。
第一幕:伯爵邸の一室・フィガロとスザンナの新居
おめでたい結婚式の日だというのに朝からどうも騒がしいお屋敷の中。なんとバカ殿、いや伯爵があの忌まわしい「初夜権」を復活させて新婦・スザンナを頂いてしまおうと画策していたのでした。
※初夜権=新婦は新婚初夜を領主様と共にしなければならないという過去の悪習
驚いたのはフィガロです。俺のスザンナに何をする気だ!バカ殿の好きにさせてなるものか!フィガロは殿に一泡吹かせてやろうと決心します。
一方、侍女頭のマルチェリーナは年甲斐もなくフィガロにご執心の様子。以前フィガロに金を貸した際「返せなかったら結婚します」と書かせていた証文を盾にフィガロを奪い取ろうと画策し、フィガロに恨みを持つバルトロを仲間に引き入れます。ちなみにこのバルトロ、実は遠い昔マルチェリーナと“良い仲”だったんですね。いやぁ大人の女性は実に怖いです。
ここで「新婦・スザンナ vs 手練手管の行き遅れ・マルチェリーナ」の女の戦争が勃発!...若さが勝つのか、やはり熟女は一枚上手なのか..結果は!?
とそこにバルバリーナとの逢い引きがバレてクビになったばかりのケルビーノが現れ、そのケルビーノが隠れると殿がスザンナを口説きに現れ、殿が隠れるとゴシップ大好きなバジリオが現れて、いよいよ屋敷は大混乱。殿の怒りを買ったケルビーノが戦地へ左遷されることになって第一幕が終わります。
第二幕:伯爵夫人の部屋
すっかり倦怠期を迎えて殿に相手にされなくなってしまった伯爵夫人と、殿の執拗な誘いに辟易しているスザンナ、殿に一泡吹かせてやりたいフィガロの三人で殿をこらしめる策を練ります。その策とは「女装したケルビーノを殿に口説かせてその現場を伯爵夫人が押さえる」というものでした。
そこへ、戦地へ旅立つ準備を終えたケルビーノが戻ってきます。伯爵夫人に愛の歌を歌って聞かせるケルビーノ。そんなケルビーノにまんざらでもない伯爵夫人はスザンナに用事を言いつけてケルビーノと二人きりになります。が、夫人がうっとりとしたところに殿が登場。ケルビーノは慌てて隠れるのですが...。怒り狂う殿にしらを切る夫人、絶体絶命のケルビーノはスザンナの機転で危機を脱したものの....。実直な庭師アントニオの余計な一言でまたもや屋敷はてんやわんやの大騒ぎ。悲喜交々の思いの中、第二幕が閉まります。
第三幕:婚礼が行われる大広間
騒動も一段落し一人になる殿。..がしかしこの男、どうにもまだスザンナが諦めきれない様子です。そこで夫人とスザンナは次なる策を練ります。スザンナが殿を夜の庭へ呼び出し、伯爵夫人がスザンナになりすまして逢い引きに来た殿を押さえよう!と。
そんな策略があるとも知らず、朝とは打って変わってすりすりと言い寄ってくるスザンナにすっかりデレデレのバカ殿です。
とそこに裁判官を従えてマルチェリーナとバルトロが入ってきます。「裁判は終わった。お金を返せないのなら結婚しなさい!」と言い寄るマルチェリーナ。追いつめられたフィガロはある告白をします。そのとんでもない告白とは...!?
さてさて、ウソのような波乱の展開の中ケルビーノはまたしても殿に見つかってしまいます。いよいよ殿の逆鱗に触れたか!?というところで、バルバリーナの“機転”で命拾いをするケルビーノ。こうしてめでたく?バルバリーナはケルビーノと結ばれるのでした..。
そうして大広間では予定通りフィガロとスザンナ(と一組!?)の結婚式が始まります。飲めや歌えの大騒ぎ。そんな中、「もし今夜逢っていただけるならこのピンをお返しください」というスザンナからの手紙を渡された殿は策略とも知らず有頂天になってしまうのでした。
第四幕:屋敷内の庭先
殿から大切なピンを預かりスザンナに返すよう言付かったバルバリーナ。なんとその大事なピンを無くしてしまいます。暗がりの中必死で探すバルバリーナ。「ああ無くしてしまった。大切なものを無くしてしまった..。」大人たちのバカげた騒動をよそに、大人になりかけの少女バルバリーナが歌う短調のアリアで最終幕の幕が上がります。バルバリーナが無くしてしまった「大切なもの」は一体何の暗喩なのでしょうか..。
さてそこに現れたフィガロとマルチェリーナ。バルバリーナから事の次第を聞き出します。スザンナたちから計画の変更を聞かされていなかったフィガロはスザンナがついに殿の手に落ちてしまったと落胆し、二人の逢い引きの場へと急ぐのでした。
場面変わって城内の松の木の下。そう、スザンナが殿を呼び出した逢い引きの場所です。フィガロに連れてこられたバジリオとバルトロ、偶然この場所でケルビーノと待ち合わせをしていたバルバリーナ、一同が各々物陰に身を潜めたところに「スザンナに扮した伯爵夫人」と「伯爵夫人に扮したスザンナ」がやってきます。
さぁ、いよいよ一世一代の大芝居!何も知らないケルビーノがバルバリーナと逢い引きしにやってきたところから壮大なフィナーレへ向かいます。ケルビーノはスザンナ(実は夫人)を口説き...殿が現れてケルビーノを叱りつけ...殿はスザンナ(実は夫人)を口説き、二人が入れ替わっていることに気付いたフィガロは悪戯心で夫人(実はスザンナ)を口説き、口説かれたスザンナはフィガロが夫人を口説いたものと思って嫉妬に狂い...、てんやわんやの中、伯爵夫人が正体を明かして物語はクライマックスへ!
もつれにもつれた大混乱のクライマックス、最後は全員が許し合い、優しさと幸せにあふれた喜びのフィナーレを合唱して幕が下ります。
いつもあたたかい応援・ご声援をいただきありがとうございます。1月に本公演のスザンナ役という大きな役を頂いてから5ヶ月、ただがむしゃらに稽古を重ねて参りましたが、本番が近づくにつれ役の大きさと重責をひしひしと感じるようになってきました。今回の役は私のこれまでのキャリアの中でも大きなチャレンジであると同時に、今後に繋がる大きな一歩だと感じています。
公演まであと2週間。皆様のご期待に応えられるよう、いやご期待を少しでも上回れるよう、万全を尽くして最高のコンディションで本番に臨みたいと思います。
宮入玲子のスザンナにどうぞご期待ください!(2007年5月26日)